スペクトルに表れている色々な線は、星に含まれている数多くの原子が、どの様な状態なのかを表しています。
原子は、その原子に特有ないくつかのエネルギー状態(エネルギー準位)をもっています。
最もエネルギーの低い状態を基底状態、それ以外の状態を励起状態といい、
エネルギーの低いものから、第1励起状態、第2励起状態(n
=1, 2, …)と名づけられています。
原子内の電子は、光を吸収することによってエネルギーを手に入れ、より高いエネルギー準位へと移動します。
一方、エネルギー準位の低い方へ原子が移動する時は、
光を放射することによってエネルギーを外に出しています。
この様に、光を放出したり吸収したりしてエネルギー準位を移り変わる事を、遷移といいます。
では、具体的な例を挙げて見ていきましょう。
まず、代表的な水素元素の吸収線(バルマー線)は、2番目のエネルギー準位から上に移動する時に見られます。
n=2→n=3・・Hα
n=2→n=4・・Hβ
n=2→n=5・・Hγ
輝線は、これらの逆向き(エネルギー順位の高い方から低い方へ)に電子が移動する時に見られます。
水素の吸収線は、K型星(4000〜5300
K)くらいから見え始め、A型星(7500〜10000 K)で最も強く表れます。
これは水素が、A型星ほどの温度で一番励起されやすいためです。
更に高温の星(B型、O型)になると、電子が殻を離れ電離してしまい、
水素原子そのものの数が少なくなるので、吸収線は弱くなります。
これとは対照的に、ヘリウムは、低温の星では励起は起こりにくく、
B型星,O型星くらいにならないと、吸収線は見えません。
さらに星には、金属元素の吸収線や輝線が見られます。
金属元素とは、天文学では水素とヘリウム以外のすべての元素を指し、
これらは電子を多く持つので、複雑なスペクトルを示します。
ここでは例として、カルシウムを見ていきましょう。
中性カルシウム(CaT)は、M型(3000〜4000 K)の様な低温の星で最も強い吸収線が表れます。
これより高温になると、簡単に電離してしまいます。
およそ5000Kを超えると、CaTは1回電離(1個の電子が取り除かれる)したイオン(Ca+)となり、
CaUと表されます。
同様に、二回電離したもの(Ca+2)は、CaV
三 〃 (Ca+3)は、CaW と表されます。
他の金属原子も同様に表されます。
高温の星では、これらの電離イオンの線スペクトルは、可視光領域では見えなくなるのですが、
スペクトル自体としては単純なものになります。
一方、より低温の星では、複数の原子が分子を形成するので、非常に複雑な線を示す様になります。(例:CH,Tio)
ではそれぞれのスペクトル型について見ていきましょう。